皆さんは研究者はみんな勉強好きだと思っていらっしゃるかもしれません。勉強するとは,今は自分が関心のない事柄を,後で自由に使えるようにすることだと考えますと,実は私たち研究者もどちらかといえば大の勉強嫌いといえます。しかし「勉強する」は,実験をする心理学者にとっては,格好の関心ある対象でもあるのです。
なぜあるものは覚えやすく,思い出しやすいのでしょうか?やる気があるとはどんなことなのでしょうか?何で気が散って仕方がないのでしょうか?短くても集中して勉強に向かった方がいいのでしょうか?睡眠学習とか速読術とかは勉強に役に立つのでしょうか?誰もが勉強で悩む事柄は,心理学では,記憶,動機づけ,注意,学習,生理,知覚といった様々な分野で盛んに研究されています。(こんなふうにみると,私たちにとってこうした研究をすることは,昔苦しんだ勉強へのささやかな「リベンジ」のようにも見えてきます。)
今回,このシンポジウムに参加してくださる先生方は,いずれも心理学の基礎的な分野で活躍されている「学問」好きな先生方です。「学問する」対象は自分の関心ある事柄ですから,「勉強する」とは大きく違います。しかしいずれも手練れの先生方のことですから,きっとご自身の経験もふまえて基礎心理学からの勉強の秘訣をみなさんに語ってくださることでしょう。受験を間近に控えた高校生の皆さん,大学院や就職に向けた勉強にいそしむ大学生の皆さん,そして日々の生活の中で常に勉強に余念のない社会人の皆さんのご来場を心よりお待ちしております。
坂上貴之(慶應義塾大学,日本基礎心理学会 理事長)