猛威をふるった暑さも衰え、虫の音が秋の訪れを告げています。夏休みが終わって、皆さんはそれぞれ充実した毎日を過ごしておられることと思います。
ところで、現実に眼を向けますと、私たちの周囲では心痛む社会的問題が次々に発生していますが、多くが心のありようが原因となっていると思われるところから、その解決を心理学に期待する気運が高まっています。皆さんの中には、そのような要請に応える社会貢献をめざして心理学を専攻しようとしている人たちも少なくないでしょう。また、多様な心理現象の背後に潜む法則性に興味をもっている人たちもおられるだろうと思います。
近ごろ、街には「心理学」の名を冠した出版物が出回っています。しかし、中には問題について根拠の乏しい解決法を提唱しているものや、心理学の現状について偏った紹介をしているものなどがあって、この学問分野の実像が正確に描かれているとは限りません。とりわけ、心理学の基礎研究については、その特徴や意義がかならずしも充分に伝えられていないように思います。
日本基礎心理学会は、1981年発足以来、心理学基礎領域における研究成果を蓄積するとともに、隣接諸分野と連携して神経科学や認知科学などビッグサイエンスの推進に参画してきました。また、地味ながら成果の応用にも努めてきました。
本学会では、基礎心理学の面白さや研究の深みを、特に将来の学術を担う若い人たちに知っていただこうと、高校生・大学生の皆さんを対象にした成果の公開を始めました。昨年度は東京を会場に開催しましたが、関東一円から多数の方々に参加していただき盛況のうちに実施できました。
そのことに力を得て、学会では今年度、名古屋で集まりをもつことにしました。この集まりでは、どのような方法で「心理」を解き明かすのか、基礎研究の領域でどのような課題について研究が進められているのかについてお話しするとともに、名古屋地区の大学で行われている心理学の基礎研究のもようをパネル展示して、皆さんが若手研究者と交流できる場を設ける予定です。
この機会を通じて、活字からだけでは伝わりにくい「学問の魅力」を感じ取っていただきたいと思います。ぜひ誘い合わせてご参加ください。
日本基礎心理学会
理事長 辻 敬一郎
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