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前野隆司(慶應義塾大学理工学部)
「触覚とロボットの工学から哲学まで」
本講演では,講演者の触覚・感覚・心の研究について述べる.まず,ヒトとロボットの触覚研究について述べる.すなわち,ヒトの指腹部は触覚情報を検出し易いような構造になっていることを述べる.次に,ヒトの触覚に学んだ触覚センサ研究の例を示す.すなわち,把持力制御のための局所滑り情報検出用弾性触覚センサおよび触感検出のための指紋状突起を有する柔軟触覚センサについて述べる.次に,触覚ディスプレイの研究について述べる.すなわち,局所滑り情報を振動刺激として呈示することによりヒトが無自覚的に把持力調整反射を起こすことや,超音波触覚ディスプレイによってヒトに触感を呈示できることを示す.最後に,触覚研究からのアナロジーに基づいて構築したヒトの心の構造についての仮説を述べる. |
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仲谷正史(東京大学大学院情報理工学系研究科)
「Fishbone Tactile Illusionを利用した触対象の凹凸知覚」
触感覚は人間の五感の中でも,プリミティブな外界の情報取得に優れていると考えられます.そのため,視覚で情報を取得できない真っ暗な中でも人は触覚だけを信頼して行動することが可能です.しかしながら,視覚や聴覚と同様に,人間の主観的な触体験は必ずしも物理世界を忠実に再現しているとは限りません.その証拠に,触覚における錯覚現象の例が,アリストテレス以後,長い期間をかけて少しずつ報告し続けられてきています.近年では,心理学者だけでなく,工学者が自ら錯触覚現象を見出して研究対象とする例も見られるようになってきました.本講演では,体験型デモ(触覚/皮膚感覚の錯覚)を交えながら,主に我々がFishbone Tactile Illusionと名づけた新規の触覚における錯覚について紹介します.その上で,上述の錯触覚現象を利用して理解されるヒトの触覚システムのメカニズムについてお話します. |
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大岡昌博(名古屋大学大学院情報科学研究科)
「複雑系科学が拓く触覚センシング」
当複雑系科学専攻では,決定論的には将来の状態を予想できないようなシステムや,分散型情報システムの構成要素間の相互作用によって生み出される振る舞いについて多方面から研究しています.触覚センシングは,環境に働きかけ,環境に影響を与え,その結果情報を得ています.この環境との関わり合いがあるので,触覚は他の感覚とは際だった特徴を持つことになります.触覚の感覚器官の特性にも,また環境との相互作用にも複雑系科学が関係しています.私の研究室では,複雑系科学と深く関連する確率共鳴現象,ニューラルネットワークおよび進化論計算を利用して触覚センシングを高度化する研究を進めています.今回の講演では,これらの概略を紹介するととともに,特に確率共鳴についてその発生メカニズムから外乱ノイズに強い触覚センシングへの応用までを解説します. |